本当の顔はどっちなの?
























恋する乙女の決戦日
























私には好きな人がいる。




忍足侑士。





会話したのなんてほんの数回。



いつも笑顔で優しく接してくれる彼にいつの間にか惹かれていた。



今日はバレンタインデーだから、昨日はちょっと頑張ってチョコを作ったんだ。



いつもは友チョコだけだったけど今年は違う。







1つだけ可愛くラッピングした少し大きめの箱をそっと鞄に忍ばせて登校した。
























「はい、跡部。」


「ああ、ありがとう。」


「わ、跡部が人に礼を言うなんて!」


「・・・お前、人を馬鹿にしてんのか?」





眉間にしわがよった顔も美しい跡部様。



あ、言っとくけど、これも友チョコだからね。





「忍足には渡したのかよ。」


「うううん。だって声かけずらいし・・・。」


「俺様が呼んでやろうか?」


「いいよ。自分でできるから。」





跡部は何かと私のことを気にかけてくれる。



昔からの友達っていうこともあるんだろうけど。



でも、そのお陰で色々助けてもらったし、今回のことも跡部だけに相談した。



跡部って意外に優しいよね(あーん?当たり前だろ)



だから違うクラスでもわざわざ渡しにに行くんだ。
























それにしてもいつ渡そう・・・。



ちゃんと直接渡すべきだよね。



こういうのってやっぱりタイミングなんだろうか?


誰かがそんなこと言ってた気がする。





「おい、跡部。ちゃんと聞いているのか?」


「は、はい!スミマセン・・・・・・。」


「後で教員室に来い。資料を運んでもらう。」


「ぅ・・・・・・。」





窓の外を見ながらいつ渡そうか悩んでいると先生に注意された。



そんなにボーッとしてたかな?
























「笑えるな。」


「笑えないよ!!!」




お昼、屋上でお弁当を食べていると跡部がやってきた。



どうやらバレンタインデーということもあって教室はうるさいらしい。



そりゃぁ、跡部様はモテるからね。





「こんなとこ見られたら、私どうなっちゃうんだろうね。」


「あ?別にどうにもならねぇだろ。」





絶対呼び出しされる。


現に今もちょっと目をつけられていたり。





「それで、忍足には渡したのか?」


「うっ・・・・。」


「お前、いつ渡すんだよ。同じクラスなんだろ。」


「そんなこと言っても!」





普通に渡せたらどんなに楽なんだろう。


女の子の輪の中に入って何気なく渡してもいいんだけど・・・。





「告白、するんだっけか?」


「なっ・・・!」


「お前が言ったんだろ。」





ふんと鼻で笑って弁当を食べている跡部は嫌にムカツク。


女心が分からないんだねって言ったらどつかれた。





「バーカ。俺様を誰だと思ってんだ?」


「はいはい・・・。」


「おい、無視すんな。」





こんな会話はいつものこと。



こんな風に忍足くんともできたらなーっていつも思う。





「チョコ渡すってことはさ・・・。」


「あ?」


「その人のこと好きってことだよね?」


「・・・・・・まぁ、呼び出して直接渡したりしたらな。」





呼び出し・・・・・・。


確かに、そうしたら明らかに好意があるって分かる。





「フラれるよね?」


「さあな。」


「それも嫌だな。」


「やってみないと分かんねぇかもよ。」


「跡部はそういうのないから分かんないんだよ。」


「ふん。そういえばさっきの話じゃお前、忍足呼び出す前に先生に呼び出しされてたんじゃねぇのか?」


「ああ!そうだった!!!」





悩んでたらすっかり忘れてた。


あ、ありがとう跡部・・・・・・!
























「とりあえず呼び出して、チョコ渡せば好きってことが分かるよね。」





うんうん。そうしよう。


でもちゃんと来てくれるかな?







それにしてもこの資料、重いな・・・。


こんなのだったら跡部も連れてくれば良かった。





「忍足くん、好きですっ!」


「・・・・・・。」


「付き合ってください!」





ふいに耳に入ってきた言葉。



声のするほうを見ると木陰に2人の姿。



1人は女の子がチョコを差し出している。


すっごい美人。


もう1人は・・・・・・・・。





「忍足くん・・・。」





そう、忍足侑士。



どうやら彼女も私と同じ考え方をしていたようだ。


そうだよね。忍足くんって人気だもんね。



私以外にも告白する人、たくさんいるよね・・・・・・。





「付き合ってくれる?」


「無理やな。」


「えっ・・・・・・。」


「お前みたいな奴は嫌や言うてるんや。」


「ど、どうして・・・・・。」


「化粧濃すぎ。きっつい香水つけても何も感じんわ。」





えっ・・・・・・



あんな美人なのにフラれた!?





「最低ッ!!!」





女の方は手をあげたけどさらりと忍足くんはかわしている。



涙を流しながら持っている箱を投げつて走っていく姿もやっぱり美人だなって思ってしまう。




あの人がフラれた。



私はどうなる?


私が告白したら・・・?



そりゃ、化粧も香水もつけてないけど・・・・・・



どこにも魅力なんてない。




そう思うと力が抜けて持っていた資料を落としてしまった。





その音に気付き、忍足くんがこっちを見る。




バチリと目があう。





「っ・・・・・・。」





その目はあの優しい忍足くんからが想像できないほど怖かった。



「なんか文句あるんか」って聞こえてきそうなぐらいの怖さ。





早く立ち去りたいと思うがなかなか足に力が入らない。





やっとの思いで落ちた資料を書き集め、震える足を前にと進めた。







怖い。







その思いと同時に自分もフラれてしまったというショックが胸の中をかけめぐった。
























「よう、忍足。に告白されたか?」


「は?・・・ちょぉ待ち。今何て言った?」


「だから、愛しい奴から告白されたかって聞いてるんだよ。」





俺様も相談されてた身だから気になるんだよ。



しかも2人ともに相談されてたんだぜ?


結果ぐらい聞いても文句ねぇだろ。





「何のことや。」


「とぼけんじゃねぇよ。お前のこと呼び出して告白したろ?」


「・・・・・・。」


「違うのか?」





屋上出るときは「よし、跡部。告白するから!!!」って宣言してたくせに怖気づいたのかよ。





「・・・・・・それ、ホンマか?」


「嘘ついてどうすんだよ。」


「・・・・・・最悪や。」





いきなり頭を抱えてうなり出す。



気持ち悪い(ひどいわ景ちゃん)(うるせぇ!)





「何だよ。教えろ。」


「はぁ・・・・。」





溜息混じりに話す忍足の話を聞いていると自然に顔がニヤけてくる。



どっかの恋愛小説みたいな話じゃねぇか。





「お前もとことん運がねぇな。」


「うるさいわ。」


「早くしないと離れてくぜ?」


「・・・・・・今日は部活休むわ。」





そう言うと忍足は立ち上がってを探しに行った。


俺もつくずく親切なやつだよな。
























・・・・・・?」





いきなり自分の名前を呼ばれたのでびっくりした。


今は誰も話しかけないで欲しい。



だって今、ひどい顔だから。


大好きな人からフラれたんだからしょうがないでしょ?





。」





だから、ほっといてってば。



声低いし・・・跡部かな?


もう、そこまでおっせかいやかなくてもいいのに。





・・・・。」


「もう、なんな・・・・の・・・・・・。」





何度も呼ぶ声にイライラして振り返るとそこには大好きだった人が立っていた。





、ここにおったんか。」


「・・・・・・。」


「ここにおるっちゅうことはやっぱり見てたんやな?」





そう、さっき忍足くんが美人さんをふった場所に座って泣いていた。



え、というか何でここに忍足くんがいて、私と話してるの?





「あんな、あれは・・・・・・。」


「いいよ。」


「・・・・・・・。」


「何も見てないから。」


「見とらんかったらこないなとこで泣いたりせえへんやろ。」





しゃがんで指で頬を伝っている涙をふいてくる。


その目はさっきのとはまるで違っていて。




いつも通りの優しい顔だった。





「こ、これは、ゴミが目に入って・・・。」


「そうなん?せやったらよう見せてみぃ?」


「やっ・・・・・・。」





ぐっと顔を近づけて目を覗いてくる。


こんなに至近距離になったのなんて当然初めて。



顔が熱くなってくるのが分かる。





・・・・・・。」


「え、ちょっ。」





頬に触れていた手がいきなり肩に回った。


だ、抱きしめられてる?!





「俺、のこと、いっちゃん好きやねん。」


「えっ・・・・・・。」


「せやからさっきの女はふった。」


「・・・・・・うそだ。」


「うそついてどないすんねん。」





いきなりの告白。


優しく髪をなでられるとますますドキドキする。





「なぁ、跡部は?」


「えっ?」


「俺のことどう思っとるん・・・?」


「・・・・・・。」


「そない待たされるとキスしたなるわ。」





キスという言葉に気づいた時にはすでに、唇には生暖かい衝撃が走っていた。


キス・・・してるの?






誰と?





「わわわ、わ、わ、私、キスした?」


「(めっちゃ焦っとって可愛ええ)した。」


「誰と?」


「もう1回キスしてほしいんか?」





策士なんやねって笑いながら顔を近づけてくる忍足くんの意味がさっぱり分からない。


あわてて口を押さえるといかにも嫌そうな顔になる。





「顔、赤いで?」


「だ、だってキスするから・・・・・・。」


「やって可愛いんやもん。」
























「好きなんや。のことが。」
















「・・・・・・どうして?」


「どうしても。」


「どこが?」


「全部。」


「いつから?」


「同じクラスになってからや。」


「・・・・・・。」


「好き・・・なんやろ?」


「・・・・・・・・・・うん。」





そんなに言われるとうなずくしかない。





「これからよろしゅうな、。」


「う、うん、忍足くん・・・。」


「なんやそれ。俺も『』って呼んどるんやから『侑士』でええんとちゃう?」


「ゆ、ゆ・・・・し・・・・・・。」


「ん。ええ子やね。」





私の頭をくしゃくしゃと撫でる忍足・・・侑士の手は大きくて、暖かくて。



本当に私でいいのだろうかと、いまだに疑問は残るまま。





「なぁ、今日、バレンタインやん?」


「あ、うん、そうだね。」


「・・・・・・。」


「・・・・・・?」


「チョコ。」


「え・・・・・・、あ。」





すっかり忘れていた。





「な、ないんか?」


「あ、いや、その・・・・・・。」


「告白する準備までしとったのにチョコ作らなかったんか?」


「え・・・・・・。」


「はぁ・・・・・・、俺もその程度なんやな。せやけどこれからは俺しか見れんようにしたるからな。」





すごい、恥ずかしい言葉言われた・・・・!



って、ちょっと待って・・・・・・。





「何で私が告白するって知ってたの?」


「それは跡部から聞いて・・・・・・、あ。」


「・・・・・・跡部?」





跡部ってあの跡部様ですか?



もしかして私が相談してたこと全部しゃべってたの!?





「最低!ありえない!跡部は何考えてるの・・・・・・。」


「なぁ・・・」


「今度会ったら絶対許さない!」


「なぁって、言うてるやろ。」


「・・・・・・ご、ごめんなさい。」





侑士の顔が曇っている。



だんだん、さっきの怖い顔に近くなっていくのが目に見えて分かった。





「俺と話してるんやろ?」


「う、うん・・・。」


「せやのに跡部の話するんや?」


「いや、そのっ。」


「次、それしたらおしおきやからな。」





そう言うと耳に聞こえるくらいの音でまたキスをされた。





「何も考えんといて?俺だけ見てればええんよ。」


「うん・・・・・。そうする。」
























だって怖いあなたは見たくないから
























END
























「あ、バレンタインのチョコだけど。」


「あ、そうやった。」


「ちゃんとあるよ?」


「ほんま?せやったら早う言ってくれたらええのに。」


「だって侑士が勝手に喋りだすから・・・。」


「・・・・・・すまん。」




申し訳なさそうな侑士の顔も好きになってしまった。



言われなくても、侑士しか見れなくなってしまったみたい・・・・・・・