『只今、人身事故の影響で一部遅れが出ています』
粉々になったチョコレート
人身事故・・・?
た、助かった・・・・・。
ちょうど今日は寝坊して遅刻確定だったから良かった。
これで電車のせいにすれば欠席なし。
あ、私、皆勤賞目指してるんですよ!
人身事故というだけあって悲しい気持ちもある反面、申し訳ないけど喜んでいる自分がいる。
とはいったもののホームにはあふれんばかりの人の山。
うーん、これじゃあ押しつぶされる確立高いよね・・・・・。
「申し訳ありませんがもう少し中ほどまでおつめ下さい!!!」
ホームで男の人が必死に叫んでいる。
申し訳ないけどもこれ以上つめられませんってぐらい電車の中はこんでいた。
まさにおしくらまんじゅう状態。
くさいし、冬なのに人の多さで暑いし・・・・・・。
折角急いでセットした髪の毛が大変なことになっている。
「大丈夫、授業はまだ始まってないから」
ちゃんからのメールだ。
先生もまだ来ていないらしい。
でも学校で授業が遅れる事に一緒に喜びたかったな。
発車のベルとともにガタンと車内が大きく揺れる。
人の波に押され、思わず私も傾く。
「ごめんなさい、すみません、・・・・・・?」
とりあえずぶつかった人には小声で謝っていった。
でも、1人・・・・・・。
銀髪で髪の毛を少し結んでいる私より背の高い人。
思わず止まってしまったのは私の学校と同じ制服だったから。
・・・・・・こんな人いたっけ?
「俺には謝らんの?」
「えっ・・・、あ、ごめんなさい。」
キリッとした目で私を見てくる。
3年・・・だよね?
「俺に何かついとるんか?」
「あ、うううん、何も。」
相変わらずぎゅうぎゅうの電車の中で記憶をたどってみた。
どこかで見たことあるようなないような・・・・・
「なぁ、っていうんじゃろ?」
「へ?」
いきなり声をかけられたので変な声が出てしまった。
あわてて手で口を覆う。あぶない、あぶない。
っていうか何で私の名前を・・・・・・
「あっ!それ!」
「同じ学校なんじゃな。」
銀髪の男が持っていたのは私の学生証。
ひらひらとそれを見せながら不敵な笑みをうかべている。
「返して!!!」
「しっかしこんでるな。折角サボろうと思うとったのに台無しじゃな。」
「サボる?」
「面倒くさいじゃろ。午前の授業は。」
話によるとその子はいつも午前中は面倒くさいので遅れて登校しているらしい。
だからか。まぁ、自業自得というか・・・・・・
「ってそうじゃなくて!私の学生証返してください!」
「いやじゃって言ったら?」
「むー・・・・・・。」
ぽんぽんと私の頭をたたいて笑っている。
ちょっと失礼。
初対面でその態度とは・・・・・・
「返してやるよ。」
「どうも。」
「そう怒りなさんな。」
頬をふくらませるとすぐに私の頬をたたいて笑っている。
しかもその笑顔が普通のニッコリ笑顔じゃない。
なんというか・・・・遊ばれている感じ。
「それ、チョコレートか?」
「あ、うん・・・・・・あっ!」
「どうしたんじゃ?」
しまった・・・・・・。
今日はバレンタインデー。
手には大きな紙袋の中に入った小さな箱がこの満員電車の中のように傾いている。
特に彼氏もいない私は友達への、いわゆる友チョコを大量に作ってきていた。
今日寝坊したのも昨日のうちに間に合わなかった結果。
苦労して作ったチョコがこの満員電車のせいで押しつぶされている。
「あー、絶対粉々になってる。」
「俺が食べてやろうか?」
「・・・・・あの、失礼ですけど、名前は・・・・・・・・・・。」
名前はなんですかと聞こうとした途端、車内が大きく揺れた。
人に押されれば必ず同じ方向へ倒れてしまうのがこの"満員電車"
「・・・・・・。」
「・・・・・・///」
銀髪の人の方に倒れてしまった。
力が強いのか、私を受け止めて将棋倒しのようにはならなかった。
急に近くなる互いの顔。
あっちは覗き込むように私の顔を見てくる。
「・・・・・・惚れたか?」
「なっ・・・・///」
「そんな簡単にはいかんか。」
冗談にもほどがある。
でも、胸がなったのは確かだった。
そ、そりゃこんなに顔近いしカッコよかったら・・・・・・
「さっきの質問、名前・・・じゃったっけ?」
「え、う、うん。」
「仁王雅治。テニス部3年じゃ。」
「仁王くん・・・・・・。」
テニス部といわれてもピンとこない。
確かにテニス部の男友達もいる
だけど、この人は知らない。
「うまいの?」
「一応レギュラーなんじゃけど。」
ああ、そっか。
私の友達は皆レギュラーになれないって愚痴ってたっけ。
じゃぁこの人、相当強いんだ。
「俺のこと知らんの?」
「え、う、うん。」
「結構有名なんじゃけど。」
はぁ、と大きなため息をつかれ何故かさらに顔が近づく。
・・・・・・なんで?
「やっぱり知らんかったか。」
「え?」
「いや、何でもない。」
さらに顔が近づく。おまけに身体もどんどん近づいていく。
何が起こっているのかわけもわからずされるがままだった。
「もっとこっちに来んしゃい。」
「え、ちょっ・・・・・。」
いつのまにか腰と頭に手を回されている。
密着。その言葉がふさわしいほどに。
「ちょ、な、何してるの!!!」
「抱きしめとる。」
「そ、そうじゃなくて!!!」
急に首筋に冷たいものがはしる。
目をやると仁王くんが私の肩に顔をうずめている。
「あっ・・・んっ・・・」
「そんな甘い声出さんな。他の奴に聞かれてもいいのか?」
「に、仁王くんのせいでしょ///」
首筋に痛みがはしる。
その箇所を何度も何度も生暖かいものが撫でていく。
「ちょ、やめてよ!離れて!」
「どうせこんなに混んどるんじゃし変わらんと思うけどな。」
やっと顔が離れた。でも、密着状態にはかわりない。
さっきと同じように頭をポンポンとたたいてくる。
首筋に目をやると赤い跡。
「なっ・・・・・。」
「俺のしるし。」
「???」
「これ見たら思い出すじゃろ?『仁王雅治』がやったって。」
「は?全然意味わかんない!」
思いっきり人から見える位置にその赤いしるしはついていた。
これじゃ学校に行けないじゃん!
「もうすぐ着くな。」
「・・・・・・。」
「怒ってるんか?」
「当たり前じゃん。だって全然知らないんだよ?」
「これから知るようになるからええじゃよ。」
ガタンと車内がまたゆれる。
気がつけば周りは幾分かスペースが出来ていた。
と、思えば駅に着いてしまったようだ。
「これ、貰っておくぜよ。」
「あ、ちょっと!!!」
大きな紙袋の中から綺麗にラッピングされた少し形がくずれた箱を取り出し、先に彼は電車を下りていった。
慌てて降りて見回したけど銀髪の人は見当たらない。
「これ、どうすればいいのよ・・・・・・。」
肩に残る赤い跡を見てまた胸がなる自分が嫌になった。
END
やっぱり仁王語は難しいですね
攻めの仁王も好きですよ