私には遠いのかな・・・
そんなことを考えつつもチョコを作っている自分が嫌になった
逃したチャンス
「ー!!!おはよう。」
「ちゃん・・・おはよう。」
「なになに、どうしたの?そんな暗い顔して。」
「そ、そんなことないけど?」
やっぱり隠そうとしても顔に表れているようだ。
今日は2月14日。
そう、バレンタインデー(あと、長太郎の誕生日ね)
女の子にとっては大事な日。
でも私にとっては・・・憂鬱な日でしかなかった。
「ちゃんとチョコ作ってきた?」
「あ、うん。はい、ちゃんの分。」
「・・・ありがと。じゃなくて!ちゃんと跡部くんのも作ってきたんでしょうね?」
「た、たぶん・・・・・・。」
私は跡部くんが好き。
何でっていっても・・・・・・。
別にミーハーなわけでもない。
でもずっと同じクラスだった。今年も。
何故かずっと・・・気になってた。
これが好きなんだなって思ったのはいつだったっけ?
「去年もあげてないんだから今年こそは絶対渡しなさいよ!」
「うん・・・・・・。」
去年の今頃にはもう好きだった。
だから一生懸命作った。
そんなに料理もしない私が・・・。
でも、さすがは氷帝No.1の男。
他の女の子のすごさに唖然とした。
想像はしてたことだったけどあまりにも人気で・・・。
あんなにチョコもらってちゃ私のなんて開けてもくれない・・・・・・。
そう思ったら涙しか流れなかった去年を覚えてる。
「ほら、そんな顔しないで。他の子と混じって渡せばいいのよ。」
「・・・・・・そうだよね。ありがと、ちゃん。」
「いえいえ。」
混じって渡したらちゃんと見てくれるのだろうか?
今年も去年と同じようになりそうで怖かった。
せっかくちゃんが励ましてくれてるんだから渡さなきゃね!
不安を抱えつつも彼がいる教室へと足を進めた。
着いた教室。
やっぱり女の子がすごい。
去年味わっている分、今年は楽。
はぁとため息をついて自分の席に座った。
と、同時にチャイム。
わさわさと女の子は自分のクラスに戻っていく。
女の子達で見えなかった彼を今日、初めて見る。
私の席は跡部くんよりやや斜め後ろ。
離れてて良かった・・・。
それにしても紙袋の大きさがはんぱじゃない。
あ、あれ、全部食べるわけじゃないよね・・・・・・。
おっと、いけない。ちゃんと授業は受けなきゃ。
もうすぐテストだしね。
それでもやっぱり気になってしまう。
だ、だいぶ重症なんだな・・・・・・。
シャーペンをくるくる回転させながらチラと跡部くんの方を見る。
偶然、跡部くんと目が合った。
めずらしい。跡部くんが後ろを向くなんて。
いつもは黒板か窓の外を見つめているのに。
私と目が合った跡部くんは少し驚いたように見えたけどすぐ前を向いた。
そ、そうだよね。っていうか私のこと知ってる?
喋ったことなんて数回しなないからなー。
結局、放課後になってしまった・・・。
部活だというのに相変わらず跡部くんの周りには女の子たちがいっぱい。
あそこの中に入っていくのにはだいぶ勇気がいるよ・・・・・・。
渡すチャンスをうかがっていたらついついテニスコートに来てしまった。
でも、あともう1つ用事があったんだけどね。
「さん?」
「あ、いたいた、長太郎。」
実は前、私が住んでいた家が長太郎の隣で。
だから結構長太郎とは仲がいい。
「はい、チョコ。あと、誕生日プレゼント。」
「ありがとうございます!あ、それ、跡部さんにですか?」
「う・・・ん。一応。」
「渡さないんですか?」
「ん?うううん。あれじゃ渡せないよ。」
「そうですよね・・・。でもきっとチャンスはありますよ!頑張って下さい!」
「うん。ありがと。」
長太郎は優しいなー。
ん〜、それにしてもいつ渡すかな?
とりあえず部活中は迷惑だよね・・・・・・。
よしっ!部活終わるまで教室で考えてよう。
「おい。」
「おい。」
「おい、待てって。」
「え・・・・・・。」
どうやって跡部くんにチョコを渡そうか考えて廊下を歩いていたらいきなり肩をつかまれた。
ま、まさか呼ばれていたのが私だったとは・・・・・・。
それに聞き覚えのある声。
「あ、跡部くん!?」
「そんな驚くか?」
そこにはさっきま女の子達の輪の中心にいた彼がいた。
ジャージを着たまま、息をきらしている。
「ど、ど、どうしたの?」
「・・・・・・。」
無言でにらんでくる。
こ、こんな至近距離で話したことないからどうしたらいいか分からない。
「さっき。」
「・・・・・・?」
「さっき鳳と何話してた。」
鳳・・・・・、長太郎と?
「べ、別に・・・。」
「チョコ、渡してただろ。」
「う・・・・ん。」
もしかしなくても見られた・・・?
恥ずかしい。
でもそんなこと跡部くんに関係ないんじゃ・・・・・・・。
「跡部くんには関係ないんじゃない?」
「・・・・・・。」
少しだけだけど整った顔がひきつった気がした。
「あの・・・・・・、跡部くん?」
「関係ない・・・だと?」
バンッと廊下の壁に手をついてせまってくる。
勿論、跡部くんの方が背が高いので見下ろされている。
す、すごい威圧感(さすがテニス部部長)
「え・・・・・・。」
「関係ない?俺が関係ない?」
「・・・・・・。」
バンッと何度も壁をたたく。
あきらかに目は怒っている。
わ、私が何かした・・・?
怖い。いつもはあんなに優しいのに。
「関係なくないよな?」
「・・・・・・・。」
「俺に渡すもんあんだろ。」
「・・・・・・。」
「なぁ、何とか言えよ。」
「・・・・・・ぅっ・・・。」
自然に涙が出てしまった。
これじゃ去年と同じじゃん。
パターンはだいぶ違うけど・・・・・・。
「な、何で泣くんだよ。」
「ぅっ、・・・んっ・・・・・・・。」
本当は跡部くんが何を言ってるのか分からなかった。
跡部くんが怖すぎて。圧倒されてしまった。
かっこわるい。すぐ泣く女なんて好きなはずがない。
もしかしたらチャンスだったのかもしれない。
でもその時の私には何も考えられなかった。
「っ・・・・・・・・・。」
「や、やめてっ!!!!!」
いきなり抱きしめられた。
な、なんで?なんで跡部くんが私を抱きしめる???
しかも名前で呼んでるし・・・・・・。
怖くて、頭が真っ白で・・・・。
とにかく早くこの場から逃げたかった。
反射的に跡部くんを押しのける。
「ぅっ、だ、だって、私、何もしてないのに・・・・・・。」
「・・・?」
「跡部くんに渡すものなんて何もないっ!」
綺麗にラッピングされた紙袋を跡部くんに投げつけた。
震える足をフル回転させて逃げた。
紙袋を投げたあと、目があった。
その目は、もう、怒っていなかったのに・・・・・・。
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実は渡せているチョコ
ちょっと違う跡部様に自分でもびっくり